膝の関節の仕組みを解剖学的に解説
膝は立ったり座ったりといった日常的な動きをサポートするとともに、体重を支えたり、地面から足にかかる衝撃を吸収したりする役割を担っています。
膝関節とは、「大腿骨」「脛骨」「膝蓋骨」という3つの骨によって構成されている関節です。
大腿骨とは太腿(ふともも)の骨のこと、脛骨とはすねの骨のこと、膝蓋骨とは膝のお皿といえばわかりやすいかもしれません。
大腿骨、脛骨、膝蓋骨はいずれも弾力性のある軟骨で表面を覆われており、これがあることで膝関節がスムーズに動いたり、体重がかかったときの衝撃が緩和されたりしています。
膝関節には以下の4本の靭帯が付着しています。
- 外側側副靭帯
- 内側側副靭帯
- 前十字靭帯
- 後十字靭帯
靭帯とは骨と骨をつないでいる、強い弾力性のある繊維性の組織のことで、主にコラーゲンが繊維上に並んで構成されています。
大腿骨と脛骨の間には「外側半月板」と「内側半月板」という軟骨様の組織があり、関節にかかる体重の負荷を分散させ、関節にかかる負担を軽減するという、いわばクッションのような役割を果たしています。
膝関節は関節包という袋で覆われていて、その内側には滑膜という組織があります。関節内は滑膜から分泌される関節液で満たされており、関節液は関節の動きをなめらかにしたり、軟骨組織に栄養を運んだりする役割を担っています。
また、太腿の前面には大腿四頭筋、裏面にはハムストリングスという筋肉があり、これらの筋肉の働きによって膝の曲げ伸ばしが可能になります。
膝は股関節同様、日常的に大きな負荷のかかる部位であり、たとえば立っている時には体重と同じ負荷が、歩行しているときには体重の2〜3倍の負荷が、また、階段の昇り降りでは体重の約4倍の負荷がかかるとされています。(*1)
若い頃にはなんでもなかった動きも、年齢が上がるにつれて膝の機能が衰えてくることで、膝を動かしづらくなったり、痛みを感じたりすることもあります。
現在、日本では膝の痛みを抱える人が多く、研究によると、50歳以上で「膝に痛みを感じたことがある」人は40.4%にのぼることがわかりました。
「膝が痛い」ときの症状チェック
膝に関する症状にはさまざまなものがあります。
「膝が痛い」といっても、「安静にしていると痛みが出ないが、歩くと痛みが出る」「階段を上り下りするときに痛みが出る」など、痛みが出るシチュエーションもさまざまです。
膝に関する代表的な症状を挙げてみます。
<痛み症状チェック>
- 膝の前側が痛い
- 膝の裏側が痛い
- 膝の外側が痛い
- 膝の内側が痛い
- 膝の内側を押すと痛い
- 歩き始めや立ち上がる時痛い
- 膝が腫れて熱っぽい
- 膝に水がたまる
- 膝がポキポキ鳴る
- 膝がギシギシ鳴る
- 痛くて正座できない
- 階段の上り下りがつらい
- 膝を曲げる、伸ばすときに痛む
- 立ち上がる時に痛む
- 跪くと膝が痛い
- 歩き始めに痛い
- 方向転換した時に痛む
- 痛くて長時間歩けない
- 走ったり、スポーツをしたりする時に痛む
膝に出現する症状にはさまざまなものがあり、たとえ原因となる疾患が同じであっても、人によって症状は異なります。
たとえば、「膝を曲げにくい」「伸ばしにくい」と感じる原因には、変形性膝関節症や半月板損傷などさまざまな疾患が考えられますし、加齢とともに筋肉の柔軟性が低下することも、膝の可動性を損なう原因になります。
膝を伸ばす動作には、太腿前面にある大腿四頭筋が、一方、膝を曲げる動作には太腿裏側にあるハムストリングスが関係しています。
そのためこれらの筋肉が柔軟性を失ったり、筋力が低下したりすると、たとえ病気ではなくとも「膝の曲げ伸ばしをしにくい」といった自覚症状を覚えることがあります。
しかし「膝を曲げ伸ばししにくい」という症状だけでは、原因となる疾患を推測することはできないため、原因を追求するには医療機関での詳しい検査が必要になります。
また、「膝になんとなく違和感はあるけれど、痛みがないから大丈夫」と考える人も多いかもしれませんが、膝に関する疾患のうち、初期症状には痛みがなくても、進行するにつれて急速に痛みが増してくるものもあります。
そのため「痛くないから大丈夫」など安易に考えるのは、とても危険。
膝に関する違和感や痛みなどを覚えたら、できるだけ早めに整形外科を受診するようにしましょう。
クッションとなる軟骨や半月板、それを支える靭帯や筋肉は年齢とともに徐々に痛んできたり弱ってきます。筋力が落ちてしまったり、動きが悪くなったり、関節の緩みやずれを筋力で支えられなくなるとより強い痛みがでます。
生活内の同じ動作で同じ症状が続く場合はどこかが痛んでいる可能性がありますので、整形外科医師に相談しましょう。
膝関節の痛みや違和感を引き起こす疾患
膝関節に痛みなどの症状を引き起こす疾患には、非常にさまざまなものがあります。
整形外科の領域では外傷やリウマチ性疾患のほか、腫瘍性の疾患や代謝性の疾患などの可能性も考えられますから、適切に治療をするためには、十分に問診と検査を行うことが必要です。
ここでは、膝の痛みや違和感を引き起こす代表的な疾患を解説します。
特徴や対処法などを抑えておくと、万一膝に痛みが生じたときにも役立ちます。
1. 変形性膝関節症
変形性膝関節症とは、膝関節の軟骨が加齢とともにすり減ることによって関節の炎症や変形が起こる疾患です。
変形性膝関節症は発症の機序により、以下の2つに分類されます。
- 一次性変形性膝関節症
明らかな原因がなく、加齢に慢性的な圧力や振動などの機械的刺激が加わることで発症する。
- 二次性変形性膝関節症
外傷や半月板の切除、炎症性・代謝異常疾患に伴って発症する。
これらのうち、日本で多く見られるのは一次性変形性膝関節症です。
変形性膝関節症を多く発症するリスクファクターとしては、「年齢」」「女性」「肥満」「外傷」という4つの項目が指摘されており、男女比は1:4で女性に多く見られることがわかっています。
初発の年齢は50〜60代であることが多く、高齢者になるほど罹患率が高くなります。
初期には歩き始めや立ち上がりなど、動作の初期動き始めに膝関節の内側に痛みを感じることが多く、しばらく歩くとその痛みは軽快したり、消失したりします。
しかし症状が進行すると歩き始めだけでなく、歩いている最中にも痛みを感じるようになり、次第に長い距離を歩けなくなってきます。(*2)(*3)
また、階段の上り下りが困難になり、末期になると安静にしていても痛みが続き、骨の変形が目立つようになり、歩行が困難になります。
この疾患の特徴に、「膝に水が溜まる」ということが挙げられます。
膝に水が溜まることを「膝関節水腫」といい、これを引き起こす疾患にはさまざまなものがありますが、中高年世代において最も多い原因が変形性膝関節症です。
なぜ、変形性膝関節症になると膝に水が溜まるのかというと、軟骨組織がすり減り、そのかけらが滑膜を刺激し、炎症を引き起こすためです。
すると関節液の分泌量が異常に増えてしまい、その結果、膝に水が溜まってしまうのです。
膝に水が溜まった場合、水のなかに含まれているサイトカインという物質が、炎症や痛みをさらに悪化させたり、軟骨や靭帯、半月板を破壊したり、変形性膝関節症をさらに進行させたりすることがあります。
そのため、膝から水を抜く処置が必要になります。
(*2)理学療法科学 20 (3) : 235-240, 2005
(*3)公益社団法人 日本整形外科学会
2. 半月板損傷
半月板損傷とは文字通り、半月板が損傷する疾患のことであり、スポーツをしている最中に起きる怪我のなかでも頻度の高いものです。
半月板は大腿骨と脛骨の間にあり、三日月の形をしています。
骨と骨がぶつかる際に衝撃を吸収するクッションの役割を果たすほか、関節にかかる体重の負荷を分散させたり、関節がグラグラしないよう、安定させたりする働きを担っています。
半月板損傷は、スポーツなどのけがが原因になる「外傷性」と、スポーツなどのけがに伴わない「非外傷性」の2種類があります。
けがが原因になる場合、ジャンプの着地や急な方向転換などで膝に大きな衝撃が加わることで発症するケースが多く、半月板に亀裂が入ったり、欠けたりします。
半月板損傷が起きやすいスポーツとしては、以下のものが挙げられます。
<好発の種目>
- バスケットボール
- バレーボール
- 体操
- サッカー
- テニス
- 野球
- スキー
など
また、非外傷性の場合は加齢に伴って発症することが多いとされています。
半月板は加齢に伴って変性するため、ちょっとした刺激や小さなけがでも傷つきやすくなります。
特に40歳を過ぎると半月板のなかの水分が減少し、劣化が激しくなります。
実は40〜50代ではほとんどの人の半月板が損傷しており、これを、変性断裂といいます。
半月板損傷は加齢とともに変形性膝関節症へ進行することもあるので、注意が必要です。(*4)
半月板を損傷すると、膝関節の痛みや腫れが起こる場合があります。
また、膝を曲げ伸ばしするときに痛みやひっかかりを感じるようになります。
さらに症状がひどい場合には、膝に水が溜まったり、「ロッキング」といって膝が動かなくなったりすることがあります。
膝関節のロッキングとは、膝がまるでロックされたように動かなくなる症状のことで、損傷した半月板が関節の内部にはまることで起こります。
激しい痛みを伴い、歩行が困難になることもあります。
半月板は損傷の形態によって、次の図のように分類されます。
断裂の程度や形状、部位などによって治療法が異なるので、早めに専門医の診察を受けることが必要です。
(*4)公益社団法人 日本整形外科学会
3. 関節リウマチ
関節リウマチとは関節に炎症が起こり、関節の痛みや腫れが生じる病気疾患のことをいいます。(*5)
自己免疫疾患のひとつであり、免疫機能が誤作動を起こし、組織や骨、軟骨などを外敵とみなして攻撃してしまうことで発症します。
関節リウマチを発症すると、関節を包む滑膜に炎症が起きるため関節内に水が溜まり、関節の痛みや腫れ、発熱が見られます。
滑膜に炎症が起きると滑膜が異常に増殖し、関節内の炎症が慢性化します。
すると、IL-6やTNFαなどの炎症性サイトカインが分泌され、これが関節の軟骨や骨の細胞に結合し、関節の腫れや破壊などをさらに進行させてしまうのです。
しかしなぜ、免疫機能が異常を起こすのかについてはまだ原因が明らかにされておらず、遺伝的要因や、細菌やウイルスの感染、過労、ストレス、喫煙、歯周病、出産やけがなどをきっかけに発症することが多いとされています。(*5)
一般に初期の関節リウマチでは「朝のこわばり」と言われるように、朝、関節や体のこわばりが見られることが多く、症状が進行すると関節の軟骨や骨の破壊が進み、関節の脱臼や変形が目立つようになります。
関節リウマチは肩、ひじ、股関節、膝、足首などさまざまな関節で発症します。
そのほか、手の指の付け根や第二関節、手首、足の指の付け根などにも発症し、左右の関節で同時に症状が出るという特徴があります。
初期には手指の小さい関節に症状がみられていたのが、進行するにつれて、ひじや膝など大きな関節にも範囲が広がっていくことがあります。
さらに関節リウマチは、関節だけに症状が出るのではなく、貧血症状がでたり、体がだるくなったり、微熱がでたり、全身に症状が見られることがあります。
関節リウマチは男性よりも女性に多く発症し、特に、30〜40代の女性に見られやすいことがわかっています。(*6)
従来、関節リウマチはゆっくり進行し、関節破壊が始まるのは発症から10年くらい経過してからと考えられていましたが、現在では研究が進み、発症直後から急速に症状が進むことが知られています。
しかし近年では治療薬の進化により、早期に治療を開始することで関節破壊を最小限に食い止め、関節リウマチの症状や炎症反応がほとんど起こらない、いわゆる「寛解」の状態を目指せるようになっています。(*7)
「朝のこわばり」が続き、いくつかの関節の腫れが続く場合はリウマチ専門医を受診しましょう。
(*5)一般社団法人 日本リウマチ学会
(*6)公益社団法人 日本整形外科学会
(*7)関節リウマチ治療の進歩
4. 特発性膝骨壊死
壊死とは組織の一部が死ぬことをいい、骨壊死とは血液の供給が行われなくなることで、骨の一部が死んでしまうことをいいます。
特発性膝骨壊死とは膝のイキが壊死してしまうことが多く、大腿骨内顆骨壊死(だいたいこつないかこつえし)ともいわれます。
これは、膝の内側顆(ないそくか)という部分が壊死してしまう病気です。
内側顆は大腿骨の下端にある隆起のことで、体重を支えるのに重要な役割を果たしています。
主に中高年の女性に多く見られるという特徴があります。(*8)
病態は発生期、吸収期、完成期、変性期の4つに分類され、初期の場合にはレントゲン検査などであまり変化が見られないため、変形性膝関節症との鑑別が難しいためMRI検査によって診断します。
発症時には激しい痛みが起こり、とりわけ夜間に痛みが増強するとされています。
そのほか、大腿骨内側の関節を押すと強い痛みが生じたりすることもあります。
また、膝関節の内部に関節液が溜まることで膝が腫れ、地面に脚をつけることができないといった症状が見られることもあります。
強い痛みはだいたい3か月から1年程度で落ち着くとされていますが、その後、変形性膝関節症が進行することで膝の痛みは増し、壊死が進行して歩行が困難になることもあります。
多くの場合、発症の原因は不明とされていますが、高齢の女性に多く見られることから、骨が弱くなっているところへ大きな力がかかり、軽微な骨折を繰り返すことで骨の一部に血液が送り込まれなくなり、その結果、壊死をしてしまうのではないかと考えられています。
壊死が軽度の場合には、自然に治癒することもありますが、関節面の陥凹の程度が激しかったり、骨の変形が大きく痛みが強かったりする場合には手術が必要になることもあります。
(*8)日本臨床整形外科学会
5. その他、膝関節の疾患
これらのほかに膝やその周辺に痛みをもたらす疾患には以下のものがあります。
- 膝靭帯損傷
- 膝離断性骨軟骨炎
- オスグッド病
- 膝蓋骨脱臼
- O脚・X脚
- 膝関節捻挫
- スポーツによる膝の慢性障害
など (*9)
このように、膝の痛みを引き起こすものには、スポーツなどによる外傷を原因とするものと、加齢や疾患などを原因とするものの2つがあります。
スポーツが原因となる場合には、痛みの原因に心当たりがあることも多いかもしれませんが、加齢や病気を原因とする場合には、知らないうちに膝の疾患が発症し、気づいたときにはかなり症状が進んでいた、ということも少なくありません。
膝の痛みは一時的であったり、日常生活を送る上ではあまり支障がなかったりすることも多いため、そのまま放置してしまう人も少なくありません。
しかし疾患によってはどんどん進行してしまい、歩行が困難になったり、手術が必要になったりするケースもあります。
また、膝が痛いと歩いたり動いたりすることが億劫に感じられ、どんどん活動性が低下していきます。
すると膝を支える筋力も低下し、また、体重は増加してしまいます。
体重が増えればますます膝に負担がかかりますし、膝の関節軟骨のすり減りが激しくなったり、骨の変形が強くなったりして、さらに痛みを増強させてしまいます。
このような悪循環を起こさないためにも、膝に違和感を感じたら早めに整形外科を受診することが大切です。
(*9)公益社団法人 日本整形外科学会
この様に膝の痛みの原因には様々な疾患があります。また、例えば変形性膝関節症があっても、その他の痛みの原因を合併されている事も多いため、痛みがなかなか良くならない場合は膝専門医を受診しましょう。
膝の痛みの保存療法と手術療法
膝に痛みなどの症状を感じる場合、治療法は「保存療法」と「手術療法」のいずれかから選択します。
病態や症状、患者の年齢、ライフスタイルなどを考慮しながら、どちらにするか決定しますが、いずれにしても重要なのは、正確に疾患を鑑別するということです。
特発性膝骨壊死の初期は変形性膝関節症と鑑別することが困難ですが、変形性膝関節症の治療を特発性膝骨壊死に対して行っても、症状の改善を見込めないどころか、ますます悪化させてしまう原因になります。
そのため、治療を行う前には必要な検査を行い、正確に疾患を鑑別することが大前提となります。
1. 保存療法
一般的に、手術を伴わない治療のことを保存療法といいます。
膝の痛みに対する保存療法には、主に以下のものがあります。
生活習慣の改善
生活習慣を変えることで膝にかかる負担を軽減し、痛みなどの症状を軽くすることをめざします。
特に肥満の人は体重を減らすことが必須。
体重が重いとその分大きな負担が膝にかかることになり、さらに症状を悪化させてしまうからです。
研究によると、BMIの高い肥満や過体重の人が体重を効果的に減らすと、変形性膝関節症による膝の負担は20%減少する、ということが報告されています。(*10)
また正座や和式のトイレなど、和式の生活は膝にかかる負担を増大します。
イスに座ったり、洋式のトイレを使ったりするなど、生活のスタイルを変えることも推奨されています。
そのほか、長時間歩いたり、階段を上り下りしたりする動作は膝の負担を増すため、できるだけ行わないようにすることも大切です。
薬物療法
膝痛がひどい場合には消炎鎮痛剤を内服したり、外用剤(湿布)を使用したりすると良いでしょう。
また、関節内にヒアルロン酸やステロイドを注射することもあります。
ヒアルロン酸を注射すると関節の動きが滑らかになり、軟骨を保護したり、膝の痛みや炎症を抑制したりする効果が期待できます。
またステロイド注射には、膝の炎症を抑え、痛みを軽減する効果があります。
ただしステロイドを繰り返し注射すると、軟骨に害を与えるリスクもあるので医師の指示に従いましょう。
そのほか、近年ではPRP療法やAPS療法などの再生医療も積極的に行われています。
理学療法
理学療法とは、病気やけが、加齢などによって低下した運動機能を改善するため、運動、温熱、電気、水、光線などの物理的手段を用いて行われる治療法のことをいいます。(*11)
膝痛に対する理学療法では、温熱療法や運動療法などが積極的に行われています。
特に運動療法は重要であり、膝痛のために運動をするのをやめてしまうとかえって膝周辺の筋力が衰え、膝を支えることができなくなります。
特に膝痛予防や改善のためには、太腿前側の筋肉である大腿四頭筋を鍛えることが大切です。
とりわけ水中ウォーキングは浮力を活用することで膝への負担が軽減されるのでお勧めです。
また、膝の曲げ伸ばしをはじめとするストレッチ訓練も痛みが増強しない程度に行いましょう。
そのほか温熱療法は膝を温めて血行を良くし、痛みを緩和することを目的に行われます。
赤外線、低周波、レーザー、ホットパックなどで膝を温めるほか、入浴も膝を温めるのに有効です。
装具療法
足や靴に装具を装着することで、体重のかかる場所を変え、膝への負担を減少させます。
足底装具にはインソールタイプのものや、足裏のアーチをサポートするものなど、さまざまなタイプがあります。
また、膝が不安定な場合には支柱入りサポーターが用いられることもあります。
(*10)New study reveals the most common form of arthritis, osteoarthritis, affects 15% of the global population over the age of 30 (ワシントン大学 保健指標評価研究所 2023年8月21日)
(*11)公益社団法人 日本理学療法士協会
膝の痛みの原因によっても適切な運動方法は異なります。また、注射や装具療法を適切に行うと痛み止めや湿布も使わなくても痛くなくなる場合もあります。仕事や家庭環境など様々な原因で手術を数年間先延ばしにしたい場合には、再生医療医療も良い選択肢になります。まずは膝専門医にご相談ください。
2. 手術療法
保存療法でも症状が改善しない場合には、手術が適用になります。
膝の疾患に対する手術にはさまざまなものがあり、疾患や病態に応じて選択します。
関節鏡視下手術
関節鏡で確認しながら、損傷部位を修復したり、破損した半月板や軟骨を処理したり、増生した骨棘を摘出除去したりする。
手術後数日で歩行ができ、社会復帰がスムーズという特徴がありますが、進行した疾患には適用になりません。
高位脛骨骨切り術(HTO手術)
初期の変形性膝関節症に多く用いられる手術で、骨を切除して角度や向きを変え、O脚からX脚へ調整することで内側に偏っている体重負荷を正しくする治療法。
関節は温存され、機能を維持できるというメリットがあります。ただし、骨粗しょう症が進行している人や、変形性膝関節症で外側軟骨がほとんど残っていない人などは適用になりません。
人工膝関節置換術
けがや疾患によって傷んだり変形したりした関節を取り除き、人工関節に置換する治療法。他の治療法に比べて除痛効果が高く、関節が安定して歩行しやすくなり、足がまっすぐに伸びて姿勢が良くなるなどのメリットがあります。
その反面、感染症や血栓症などのリスクがあるほか、人工関節の耐用年数の問題もあります。
現在ではインプラントが改良され人工関節手術の耐用年数も15年から20年以上まで長くなってきています。まずは適切な保存治療を行い、それでも痛みのため日常生活での支障が増えてきた場合は専門医に相談してみましょう。
膝の痛み、根治を目指すなら
専門医に相談を
膝の痛みが長引くと活動が制限されたり、生活の質が低下したり、認知症や内臓機能の低下などさまざまな弊害が起こります。現在では手術の術式も洗練され、低侵襲で行えるようになっています。健康寿命(痛みなどにより日常生活が制限されていない期間)を伸ばして根治を目指したい場合には専門医に相談してみることをお勧めします。